記事の監修
代表取締役社長/マネジメント・アーキテクト
「マネジメントに生かす17の原理・原則」「研ぎ澄ます経営」著者村上 隆昭
株会会社村上経営研究所
代表取締役社長/マネジメント・アーキテクト
「マネジメントに生かす17の原理・原則」「研ぎ澄ます経営」著者村上 隆昭
経営コンサルタントとして26年以上、人材育成・組織開発・経営者支援に携わる。建築士としての構造思考と感情・行動の知見を融合し、「人と企業の生かせいのち」を軸に、本質的な意思決定と持続的な組織成長を支援している。
「人材育成には取り組んでいるはずなのに、なぜか人が育たない」
多くの中小企業経営者が、そんな違和感を抱えています。研修もOJTもやっている。
けれど現場は忙しく、成果は見えにくい……。
その背景には、「人材育成」と「人材開発」の違いが整理されないまま、場当たり的に施策が積み重なっている現実があります。
限られた人・時間・お金の中で成果を出すには、“育て方” そのものを見直す視点が欠かせません。
今回は、人材育成と人材開発の違いを起点に、中小企業だからこそ必要な戦略的人材育成の考え方と、今日から実践できる具体策を体系的に解説します。
人材育成と人材開発の違いとは?

「人材育成」と「人材開発」。
似た言葉ですが、実は“向いている時間軸”も “目指すゴール” も異なります。
人材育成は、今の仕事を回すための能力を高めることが主目的です。
業務に必要な知識やスキルを身につけさせ、早く戦力化する。
OJTやマニュアル教育、短期研修などが代表例でしょう。
現場にとって即効性があり、忙しい中小企業ではどうしても中心になりがちです。
一方で人材開発は、個人の強みや可能性を引き出し、中長期的な成果につなげる考え方です。
単なるスキル習得ではなく、「この人は将来どんな役割を担えるのか」「組織としてどう成長してほしいのか」という視点から、経験・配置・学びを設計していきます。
問題は、多くの中小企業がこの二つを区別しないまま進めている点です。
育成(短期)だけに偏ると、その場は回っても、人が伸び続ける構造が生まれません。
結果として、
「教えても教えても自走しない」
「できる人に仕事が集中する」
そんな状態に陥ってしまいがちです。
だからこそ重要なのは、人材育成を “人材開発の一部” として位置づけること。
短期成果と中長期成長をつなぐ視点を持つことで、限られたリソースでも人は確実に育ち始めます。
なぜ今、中小企業に「戦略的人材育成」が重要なのか

人材育成の重要性は、以前から語られてきました。
しかし今、それが「戦略的」でなければならない理由は、かつてとは環境そのものが違っているからです。
現場の頑張りや個人の努力に任せるだけでは、組織が前に進みにくい時代に入っています。
だからこそ、経営の視点で人材育成を捉え直す必要があるのです。
技術革新・競争激化・人材不足に対応するため
IT化・DXの進展、顧客ニーズの高度化、競争の激化。
中小企業を取り巻く環境は、年々スピードを増して変化しています。
一方で、人手不足、人材不足は慢性化し、「必要な人を採れば解決」という時代ではなくなりました。
限られた人材で、これまで以上の付加価値を生み出すことが求められています。
こうした状況で従来型のOJT任せ育成を続けると、
・教える人によって成長差が出る
・新しい技術や考え方が現場に根づかない
・変化に対応できる人が育たない
といった問題が顕在化します。
戦略的人材育成とは、変化を前提に「どんな力を組織として持つべきか」を考え、
そこから逆算して人を育てていく取り組みです。
環境変化に振り回されるのではなく、対応できる人材を内側から育てる。
それが、これからの中小企業に求められる姿勢です。
経営の成果につながる人材基盤を作るため
人材育成は「コスト」ではありません。
正しく設計すれば、経営成果を生み出す投資になります。
戦略的人材育成に取り組む企業では、
・現場の判断スピードが上がる
・生産性が安定的に向上する
・人が定着し、採用コストが下がる
といった変化が少しずつ現れます。
これは、個人のスキルアップだけでなく、
「考え方」「行動の基準」「仕事の進め方」が組織全体で揃ってくるからです。
人は一朝一夕には育ちません。
だからこそ、短期の成果に一喜一憂せず、人材を “基盤” として捉える視点が重要になります。
人材基盤が整えば、事業の継続性も、次の成長の芽も自然と見えてくる。
戦略的人材育成とは、未来の選択肢を増やすための経営判断なのです。
人が育たない原因とは?

「ちゃんと教えているのに、なぜか育たない」
この悩みは、決して現場や社員の努力不足が原因ではありません。
多くの場合、育たない構造そのものが組織内に存在しています。
中小企業で特に多く見られる、代表的な二つの原因を整理してみましょう。
OJTが属人化している
中小企業の育成は、どうしてもOJT中心になりがちです。
それ自体は悪いことではありません。
問題は、そのOJTが「誰が教えるか」に依存してしまっている点です。
教え方が上手な人に当たれば成長が早い。
一方で、忙しい上司や説明が苦手な先輩に当たると、何を基準に仕事を覚えればいいのか分からない。
結果として、
・成長スピードに個人差が出る
・「聞きにくい」「失敗が怖い」空気が生まれる
・できる人ほど疲弊する
といった悪循環が起こります。
OJTは本来、経験学習として非常に効果的な方法です。
しかし、共通の育成基準や到達イメージがなければ、単なる「場当たり的な引き継ぎ」になってしまいます。
評価・配置・フィードバックが連動せず、成長が継続しない
もう一つの大きな原因が、育成と人事の仕組みがつながっていないことです。
頑張って新しいことを覚えても、評価に反映されない。
挑戦しても、配置や役割が変わらない。
結果として、「学んでも意味がない」と感じてしまう社員は少なくありません。
人は、評価され、期待され、次の機会を与えられることで成長します。
育成・評価・配置・フィードバックがバラバラでは、成長は一過性で終わってしまいます。
特に中小企業では、制度を整える余裕がないまま、
「とりあえず現場で育てる」状態が続きがちです。
しかしそれが、知らず知らずのうちに人の成長を止めている。
ここに気づくことが、戦略的人材育成の第一歩になります。
限られたリソースで最大効果を出す人材育成の考え方

人材育成に十分な予算や専門部署を持てない。
これは多くの中小企業に共通する現実です。
しかし、成果を出している企業は「リソース不足」を言い訳にしていません。
彼らが重視しているのは、やり方を増やすことではなく、考え方を揃えること。
ここでは、限られた条件の中でも効果を最大化するための三つの視点を紹介します。
経営戦略と連動して「求める人材像・育成目標」を明確にする
まず必要なのは、「どんな人を育てたいのか」を経営の言葉で定義することです。
スキル一覧を作る前に、立ち止まって考えてみてください。
・自社は、これからどんな事業に力を入れるのか
・そのために、社員にどんな判断・行動をしてほしいのか
ここが曖昧なままでは、育成は現場任せになり、成果は分散します。
逆に、求める人材像が言語化されると、育成の優先順位が一気に明確になります。
「全部できる人」を目指す必要はありません。
経営戦略とつながった “自社らしい人材像” を描くことが、戦略的人材育成の起点です。
複数業務をこなせる育成で組織の対応力を高める
人が少ない中小企業では、「一人一役」に依存するほどリスクが高まります。
誰かが休めば仕事が止まる。
そんな状態は、決して珍しくありません。
そこで重要になるのが、複数業務をこなせる人材を育てる視点です。
いわゆる多能工化は、単なる効率化ではなく、組織の “しなやかさ” を高めます。
・業務全体の流れが理解できる
・他部署への配慮が生まれる
・変化への対応が早くなる
結果として、個人も組織も視野が広がり、判断の質が上がっていきます。
これは、人材開発の視点があってこそ実現できる育成です。
学習する組織文化を作る
最後のポイントは、学びを一過性で終わらせない文化づくりです。
研修をやっても、学んだことが現場で使われなければ意味がありません。
成果を出している企業では、
・学んだことを共有する場がある
・挑戦や失敗を振り返る対話がある
・「なぜそうしたのか」を考える習慣がある
といった小さな仕組みが積み重なっています。
学習する組織とは、特別な制度がある会社ではありません。
日常の会話や関わり方が、学びにつながっている組織のことです。
考え方を変えれば、行動が変わる。
行動が変われば、人も組織も、確実に育っていきます。
中小企業がすぐ取り組める人材育成・人材開発の具体施策

戦略的人材育成は、決して大掛かりな制度づくりから始める必要はありません。
大切なのは、「現場で回ること」「続けられること」。
ここでは、多くの中小企業が今日から取り組める実践策を紹介します。
スキルマップで育成課題を可視化する
最初の一歩として効果的なのが、スキルマップの作成です。
業務に必要なスキルを書き出し、「誰が・どこまでできるか」を見える化します。
完璧を目指す必要はありません。
まずは主要業務だけで十分です。
可視化されることで、
・育成の抜け漏れが分かる
・OJTの基準が揃う
・本人も成長を実感しやすくなる
といった効果が生まれます。
属人化していた育成を、組織の共通言語に変える。
それだけで、育成の質は大きく変わります。
メンター制度・1on1で成長を支援する
忙しい現場ほど、「ちゃんと話す時間」が失われがちです。
だからこそ有効なのが、短時間でも定期的に行う1on1やメンター制度です。
ここで重要なのは、指導や評価ではなく、
「振り返り」と「次の一歩」を一緒に考えること。
・何がうまくいったのか
・何に悩んでいるのか
・次に挑戦したいことは何か
こうした対話の積み重ねが、社員の自走力を育てます。
人材開発は、日常の対話から始まるのです。
ジョブローテーションや学習機会で対応力を高める
すべての業務を深く教える必要はありません。
ポイントは、「業務の背景」を理解してもらうことです。
短期間のジョブローテーションや、他部署の仕事を知る機会を設けるだけでも、
視野は大きく広がります。
・仕事のつながりが見える
・判断の質が上がる
・組織全体を考える視点が育つ
これは、多能工化と人材開発を同時に進める有効な方法です。
プロジェクト型学習で自走力を育てる
最後に紹介したいのが、プロジェクト型学習です。
小さな改善活動や新しい取り組みを、任せてみる。
もちろん、最初から完璧にはできません。
しかし、「考えて動き、振り返る」経験こそが、人を大きく成長させます。
上司は答えを与えるのではなく、伴走者になる。
この関わり方が、戦略的人材育成を現場に根づかせていきます。
人材育成・組織改革なら「村上経営研究所」へ

人材育成や人材開発の重要性は分かっている。
けれど
「何から手をつければいいのか分からない」
「現場が忙しく、仕組みまで手が回らない」
そう感じている経営者の方も多いのではないでしょうか。
弊社では、
制度ありきではなく、経営と現場の実情に寄り添った人材育成・組織改革を支援しています。
・人材育成と人材開発の整理
・経営戦略と連動した人材像の設計
・OJT・評価・配置をつなぐ仕組みづくり
・現場に根づく「学習する組織」への転換
限られたリソースの中でも、「人が育ち、組織が前に進む状態」を一緒に形にしていく。
それが、私たちのスタンスです。
まとめ
人材育成と人材開発は、似ているようで目的も時間軸も異なります。
短期成果を支える人材育成と、中長期成長を生み出す人材開発。
この二つを整理し、経営戦略とつなげて考えることが、これからの中小企業には欠かせません。
人が育たないのは、努力不足ではなく「仕組み」の問題です。
考え方を変え、育成を戦略として設計すれば、限られたリソースでも組織は確実に変わっていきます。
人を育てることは、未来をつくること。
今日の一歩が、数年後の大きな差につながります。
💡もしこの記事を読みながら、
「自社もそろそろ本気で人材育成を見直したい」
そう感じたなら、一度立ち止まって考える時間をつくってみてください。
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