初めに
日本では「教育」というと、「教える」「育てる」といった一方向のイメージが強いかもしれません。
けれど、その語源をたどると、「本当の教育」とはまったく異なる意味が見えてきます。
今日のテーマは、「教育とは何か?」という根本に立ち返り、人を信じて、引き出す関わり方について考えてみたいと思います。
今、研修や人材育成の現場では、「学ばされる」ことに慣れすぎて、自ら学ぼうとする姿勢を持てない人が増えていると感じます。
受講者が“聞く準備”はできていても、“考える準備”はできていない。
そんな印象を受けることが多々あるのです。
これからの教育に必要なのは、ただ情報を与えることではなく、「自分の中から引き出す力」を育むことです。
教育とは“教えること”なのか?
多くの人が、「教育=教えること」と考えています。実際、学校でも職場でも、「知らない相手に知識を与えること」が教育の役割とされがちです。
もちろん、知識や技術を伝えることはとても大切です。けれど、その前提が「相手は何も知らない」「できない存在だ」という見方に基づいているとしたらどうでしょうか?
この前提は、知らず知らずのうちに、教える側が上、学ぶ側が下という上下関係をつくり出してしまいます。すると、教える内容が「与えるもの」ではなく、「押しつけるもの」に変わっていくのです。
現場での研修でも、そういった空気に出会うことがあります。受講者の多くが、メモを取ることには集中していても、「自分はどう考えるか」まで踏み込めていない。話を聞いたあとの質問タイムでも、反応がなく、講師が問いを投げても「正解を探している目」だけが返ってくる。これは、教育が一方的なものになってしまっている結果だと感じています。
ラテン語に見る「教育」の語源
「education(教育)」という言葉の語源をたどると、ラテン語の2つの単語に行き着きます:
- educare(エデュカーレ):「育てる」「養う」
- educere(エデュケレ):「引き出す」「導き出す」
一般的に「education」は「educare」に由来するとされ、子どもを育てる、知識を与えるという意味が主流です。
しかし、教育論や哲学の分野では、「educere(引き出す)」の視点がとても大切にされています。この言葉は、「ex(外へ)」+「ducere(導く)」という構成で、**“内にあるものを外へ導き出す”**という意味を持っています。
つまり、「教育とは、もともと人が持っている力を信じ、引き出す営みである」――それが本来の意味だったのです。
見えてくる“前提”の違い
この語源の違いから見えてくるのは、教育に対する“前提”の違いです。
たとえば、educare的な教育では、「何も持っていない相手に教える」という構えになります。一方、educere的な教育では、「すでに何かを持っていると信じ、引き出す」ことが起点になります。
この“前提の違い”は、関わり方に大きな差を生み出します。
私は、経営者向けのコンサルティングや研修の中で、「育てようとするほど、相手は受け身になってしまう」現象に何度も出会ってきました。
本当は、「信じて、問いかけて、考えさせて、待つ」――そうしたプロセスが必要なのだと実感しています。「引き出す教育」は、時間がかかるかもしれませんが、人の“芯”を育てる力があります。
問いがあるから、人は考える
では、どうすれば「引き出す教育」ができるのでしょうか?
その答えの一つが、「問いを立てる力」です。
問いがなければ、人は考えません。問いがあるから、人は自分の中を探ります。そして、その過程で初めて「自分の言葉」や「気づき」が生まれるのです。
たとえば、ある研修で「リーダーとは何か?」という問いを投げかけたとき、最初は誰も発言しませんでした。でも、「あなたが一番尊敬するリーダーは誰?なぜその人を尊敬しているの?」と問いを変えた途端、参加者が自分の体験を語り出しました。
問いには力があります。そして、その問いを“待てる”姿勢が、教育者には求められているのです。
対話が“育ち”を支える
問いかけとともに大切なのが、「対話」です。
一方的に知識を伝える講義よりも、相手と向き合い、言葉を交わす中でこそ、本当の学びは深まります。
対話には、「聴く力」も必要です。ただ黙って聞くのではなく、相手の言葉の奥にある想いや価値観に耳を傾けること。その姿勢そのものが、「あなたには考える力がある」と伝えるメッセージになります。
教育とは、情報伝達ではなく、関係性の中で育まれるものなのだと思います。
“まちの姿勢”から“自ら学ぶ姿勢”へ
今の社会では、「まちの姿勢」が強く根づいています。
- 誰かが教えてくれるのを待つ
- 環境が整うのを待つ
- 誰かが変わるのを待つ
でも、教育の本質が「引き出す」ものであるならば、本当に必要なのは、“受け身”ではなく“自ら問いを持つ”姿勢です。
私はよく研修で「この場をどう活かすかは、自分次第です」と伝えます。
誰かの話を聞いて“感心する”だけではなく、自分の中で“変換して”“実践して”“ふりかえる”ところまでが教育であり、学びなのです。
まとめ:教育の“原点”に立ち返る
教育とは、ただ教えるだけではなく、相手を信じ、内側から引き出す営みです。
「education=educere」――この言葉の語源にある精神を、もう一度見つめ直すことで、私たちの関わり方そのものが変わってくるはずです。
子どもに対しても、社員に対しても、学び手に対しても、「すでに可能性を持っている存在」として関わること。そして、問いかけ、対話し、信じて待つこと。
それこそが、“育ち”の根っこを支える本当の教育なのだと思います。
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